舟木本・洛中洛外図を観る
今回の東博特別展の、愉しみの一つに、
各時代の洛中洛外図の観比べがある。
代表的な洛中洛外図が、応仁文明の乱直後の、室町末期から、
安土桃山、江戸初期までの間に描かれたので、
その間の、つまり、戦国時代の人々の、風俗の移り変わりが、
手に取るように判るのだ。
岩佐又兵衛の舟木本・洛中洛外図の人物描写は、上杉本同様、
一人ひとりの大きさが、僅か25㎜程度に過ぎない。
しかし、その筆致の力強さと、細密さには目を奪われる。
大坂の陣前後、慶長・元和期(1597~1624頃)の京の賑わい。
京・五条通りで、扇を商う店先の光景だ。
扇を作り、売るのも女性である。
中世世界では、扇は、特別な霊力を持つと信じられていた。
また、上記のように女性が扱うものとして、
性的なシンボルとも、看做されることがあった。
店の左角で、笠を被り、扇で顔を覆い、辺りを窺う男、
これも、扇を使った、中世的な仕草の一つだ。
往来で、突然、何か異な状況に遭った時、とる行動である。
彼の視線の先に、笠を被り、木箱を抱える熊野比丘尼たちがいる。
彼女たちが持っている箱の中には、
絵解きに使う、掛軸が入っているのだろう。
熊野比丘尼たちも、やがて、聖なる存在から、
遊女のような、存在へなって往く。
(捨身 Canon S110)
| 固定リンク
「美術史」カテゴリの記事
- 出光美術館で伴大納言絵詞中巻を観る(2016.06.01)
- 古拙の微笑(2014.12.06)
- 東博の国宝展を観る(2014.10.18)
- 舟木本・洛中洛外図を観る(2013.10.10)
- 洛中洛外図・全四作観覧達成(2013.10.09)
コメント