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2015年7月24日 (金)

説経節「をぐり」を読む(19)

B15072301

「なにがしの芸とは、弓か鞠か包丁(料理)か。
 力業、早業、双六も、お望み次第よ。横山殿」
「それがし不調法にて、左様な雅な芸は好みませぬ。
 ただ、誰も乗りこなした者無き奥州馬が一匹ござる。
 ほんの一馬場、如何かな」
「易きこと」
小栗、座敷をずんと立ち、厩へ向った。
しかし、目指す名馬は其処に居らず、
館の堀の外、遙か八町(873m程)も離れた萱野へ導かれる。
ふと見渡せば、辺りは彼の鬼鹿毛が喰い散らかしたと観える、
死屍累々の白骨野なのであった。
小栗に付き従う屈強な十人の殿原たちも、
「こは如何に小栗殿、厩どころか人を送る野辺ですぞ」と不審がる。 
「野辺ではないな。音に聞く鬼鹿毛とは、このことだ。
 押し入って婿入りした、この小栗を怪しからずと、
 人秣(ひとまぐさ)にして、喰わせてしまおうとの魂胆であろう。
 まぁ、これも一興じゃ」
B15072302
やがて一行の前に、鉄の格子を廻らし、何本も貫木を差した、
獄舎と見紛うばかりの厩が現れた。
その中に、八重の鉄鎖で枷を嵌められながらも、
さあ、人秣がやって来るぞと、
前足で地を搔き、雷鳴の如き鼻息を捲く、鬼鹿毛が居る。
小栗、この有様を御覧じて、
「飛んで火に入る夏の虫とは、よく云ったものだが、
 小栗は妻故に人秣になったと都へ聞こえれば恥でもある。
 ここは一つ、鬼鹿毛に説き聞かせよう。
 人喰いの罪業、後生大事と想うなら、
 一馬場でも乗せよ。然もあらば、お前が死んだ後、
 黄金の御堂を建て、身体を黒漆で塗り固め、
 馬頭観音として祀ろう。
 抑々牛は大日如来の応化身なり。さて鬼鹿毛は如何に?」
すると鬼鹿毛、小栗を人ならぬ者と観念したのだろうか、
前足を折り、伏し拝む風情にて、両眼より涙を零した。
つかさず小栗「されば乗れ」と、大力を持って、
鉄の格子貫木破り、八重の鎖を引き千切った…
B15072303
(捨身 Canon S110)

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