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2015年8月12日 (水)

説経節「をぐり」を読む(36)

B15080706

小栗を乗せた土車は「善行車」とて、想いのほか進み、
はや青墓の宿、よろず屋の君の長殿門前に着く。
だが、何の因縁か三日間、其処を動かなかった。
偶々水汲みに出た照手姫、
ついに「餓鬼阿弥」を見つける。
もとより小栗であるとは、つゆとも知らず。
下げられた胸札を御覧じて、
「小栗殿の供養に一日、十人の殿原の供養にもう一日、
 帰りに一日、都合三日の暇を頂いて、引きたやな」と、
君の長殿へ願うも、にべもない。
姫、さらに迫って、
「…旅は心、世は情け、さて海船は浦がかり=舫うもの、
 捨て子は村の育みよ…」
(中世人の物参りの心情が窺えて、一寸面白い科白だ)
「君の長殿御身上に、もしものことが起こっても、
 自ら身代わりになろうほどに」
君の長もやっと折れ、
「慈悲に情けを相添えて、五日の暇を取らす。
 五日が六日になれば、無間地獄へ堕ちようぞ。さらば車引け」
照手姫、あまりの嬉しさに、すぐ車の綱にとりつくが、
気を取り直し、烏帽子を被り、髪をさっと乱して、
小袖を引っ掛け、笹を手にした。
往き先の「町屋、宿屋(宿々)関々」で、噂に上らぬ用心に、
中世世界ではポピュラーな、狂女の姿を装ったわけだ。
「さあ、引けよ引けよ、子供ども!
 物に狂うて観せようぞ!」
人が変わったように鼓舞する姫、土車は再び動き出した。
B15080901
(捨身 Canon S110)

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